僕はミュージシャンの平沢進が好きだ.
音楽も,やってることも,キャラの作り方も.ヒラサワの「姿勢」に憧れるのだ.
色々好きな部分があるので,一言では表しにくい.
彼の姿勢の凄さを説明できるエピソードをひとつ.
ミュージシャンが著作権の管理,運用,あるいは会計的な作業をやることはとても面倒なので,それらの管理を全て一括でやってくれる団体.
さらにJASRACは音楽をリスナーへ届けるためのパイプ役でもある.
JASRACに登録すれば,自分の曲を普段聞いてくれない人へも,音楽を届けられる可能性があるわけだ.
ミュージシャンは音楽を作り演奏する専門家であり,会計士でも知財管理者でも広告屋でもない.
正直,多くのミュージシャンは会計的な作業をするのも,著作権について学ぶことも煩わしいと思ってしまうだろう.
なので,JASRACはミュージシャンにとってとてもありがたい存在だ.
ところが,である.
平沢さんはmp3というファイル形式の登場と共に,JASRACから離反してしまう.
・著作権
・配信システムを含むプロモーション
・資金調達
・ライブシステム
これらミュージシャンを構成する要素を自分勝手に自分用に組み立てるということを選択した.
すごくコストのかかることだし,失敗するリスクが大きい.
JASRACの仕組みを使っていれば,著作権違反されても彼らが対処してくれるわけだし,
法律的に難しい会計処理だってあるんだろう.プロモーションだってやってくれる.
それを根本から否定してしまうのは,よっぽどのアイデアがある楽天家かアホかどっちかだと思う.
それでも1999年当時,平沢進はJASRACを捨て自分の楽曲のmp3配信へ踏み切った.
たぶん,平沢さんは自分とリスナーの間で作られている信頼関係に賭けたのだろう.
彼の作戦は以下の通り.
・二次創作黙認+一部の楽曲を無料提供
・ネット(mp3配信)とファンクラブを使ったプロモーション
・資金調達はナゾ
・ネットを介した在宅リスナー参加型ライブ
ITを中心に据えたおかげで,まるで時代を先取りしたような方法になっている.
単にITを好きが幸運をもたらしたようにも見えるが,自立への無理のないプランを立てられているにように思う.普通にやってできることではない.
著作権の仕組みを勉強しただけで,独立を諦めちゃうミュージシャンっていっぱいいると思う.
30代の時間を使ってしたたかに,あきらめず準備をしてきたのだろう.
だいたい,mp3が出たタイミングを利用しているし,リスナーとの絆を十分つくった後なので,ただの中二病でJASRACから離脱したわけでは決してないのだ.
ヒラサワが作詞・作曲した曲の中に「Another Day」という曲がある.
JASCRACにどっぷりつかっているP-model時代の曲だが,独白のような部分があって
合言葉は「消えちゃいました」
天候無関係
距離無関係
合言葉は「消えちゃいました」
方向は 仮り
動機も 仮り
行く先はここ
とヒラサワは言う.
で,ちょっと前(2007年)に平沢進さんはこちらをセルフカバーして,こんな歌詞に変えた.
合言葉は「消去可能」
認証無関係
適合無意味
合言葉は「消去可能」
動機は有り
存在可能
生存可能
存在可能
行く先はここ
”生存可能”と嘯くヒラサワには,自分の生き方を確立した誇りが確かに感じられる.
やるべき目標に向かいつつ,彼のように「生存可能」と胸を張るには
どんな仕組みを組み立てる必要があるだろう?
資金とか言い出すと思うけれど,もっと上位の戦略レベルでの,注意深い検討が必要だ.自分の足で立ちたいと粋がる僕には,平沢進という人物の生き方は,大いに参考になるのでした.