僕らが暇をつぶすために必要な魔術

基本的に,日本にいて最低限の生活ができている人たちは不況だろうが好景気だろうが「暇つぶし」のために生きている.
※暇つぶし=自分の衣食住・安全・健康に本来関係のない需要/供給を生み出して経済を回すこと.


実務レベルで見ると本当に色々な暇つぶしが存在するが
最も人気かつ有効な暇つぶしの一つに「幻想に浸る」ということがある.

例えば動画を観たり,漫画を読んだり,物語を読んだりすることだ.
良い幻想に浸れると人間は昂揚する.ディズニーランドが最たるもので,異世界の極楽浄土を体験できるわけ.


ちなみに僕は暇つぶしが悪いと言っているのではない.
暇つぶしと仕事と遊びの区別なんてつかない世の中にとっくになっていると思う.
一回しかない人生,幻想にたくさん浸ることで,豊かな人生感を持つことができるんだ.


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ところが,面白いことに「幻想に浸る」という時間つぶしは実はけっこう難しい.
人が幻想にちゃんと浸るためには,「これはリアルだ」と脳が勘違いをしないといけないからだ.


脳をだますのは難しい.
すぐに「こんなのありえねーよ」とクールダウンしてしまう.


クールダウンの壁を越えて,見事,脳みそをだますことに成功した作品が「売れる商品」となるのだろう.

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では,脳をだますために必要なことをはなんなのか?
僕なりの抽象度の高い答えを述べると「非現実と現実の両立」である.


1.人間は「ありふれたこと」には興味がなくて「自分にとって希少性があり価値の高いもの」に興味を持つ
2.人間は自分が実現可能な課題には集中できるが,自分に理解不能・実現不可能な課題には集中できない


細かい説明は省くが,この二つは人間の行動原理だと僕は思う.



この二つについては,現実に人生をプレイすると,大概どちらかが欠けていることに気づく.希少価値がない地道な作業をするか,希少価値があるものをいきなり求めて空中分解して集中力を無くすか.現実はなかなかクリアしにくい.


1.と2.が同時にみたされている,納得性の高い世界.それがファンタジーの世界であり,人間が憧れる幻想の世界である.



ファンタジーを作る人たちに課せられた使命は,お客の脳の中で1.と2.をどうやって両立させるか,だ.


たぶん,1.(価値が高いもの)っていうものは実際のところ時代によってあまり変化していないはずだ.
・強敵に勝つ
・王子様・お姫様と結婚する
・世界を救う
ポケモンマスターになる
・大金持ちになって大成功する
・真の愛に触れる
いつの時代も,達成できる人はごくわずかだろう.


問題は2.である.希少価値の高いものをどうやったら「納得のいく課題」に落とし込むことができるのか??


読み手はある時代に生きている以上,その時代時代に即した「魔術」の使い方があるはずだ.
不況の時代,個人が生き方を見失う時代に,どんな魔術が有効なんだろうか.
書くのも疲れてきたし,僕の大好きな言葉を引用して終わろう.


Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic Arthur C. Clarke